傾斜のある敷地には、なかなか家は建てられないと思っているかもしれませんが、私は大好きです。そもそも、初めてその斜面地で大胆な空間に遭遇したのは、ミシガンに住んでいたとき尋ねた音楽の先生の家です。
いつも同じ背広を着ていたので、お金持ちとは思っていませんでしたが、案の定、住所を尋ねると道から見えるのは平屋のつましい家でした。やっぱりと思って、どんどん前庭を通って近ずくと玄関が道路から少し下がったところにありました。幾つかのステップを降り玄関に入ると、そこは、中3階で、下へ下へと広がる空間は、最下階の庭からつながる湖へと繋がっていました。道路から見える建物のつましさと、中で広がる吹き抜けやダイナミックな空間のつながりが連鎖する豊かな拡がりとの落差は、見事に私の当て推量を裏切り、しかも2人のお嬢さんと奥様はお洒落で、まさにお知り合いの音楽家たちと演奏もするパーティーに招かれたのでした。
その後、何回もその湖沿いの邸宅に招かれて、バイオリンを弾いて合奏し、ヨットや水泳も楽しみました。同じ背広を年中着て小学校の先生をしているこの「ミスター・フェルプス」の実像は学校では想像できないものでした。
私はそれ以来斜面地に家を設計するのが大好きで、しかも、玄関のあたりからは小さく見える家を心がけています。